[健康] 職場の感情ストレスケアに脳教育プログラムを適用

メンタルヘルスケアに関する世界の最新事例や研究成果を紹介する「第3回グローバルメンタルヘルスセミナー~脳教育を通した大人と子どものメンタルヘルスケア~」(主催・特定非営利活動法人IBREA JAPAN)が、9月10日(土)大阪大学で、11日(日)東京大学で開催された。
韓国雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)やソウル大学とともに感情労働者のストレス管理に関する共同研究を行っているグローバルサイバー大学(http://jap.global.ac.kr/home/homeIndex.do)のオ・チャンヨン教授 (脳教育、認知科学)が招待講演をおこなった。職場の感情ストレスケアに対する脳教育プログラムの効果について、今年8月、国際学術誌「PLOS ONE」に掲載された内容にもとづき発表をしたオ・チャンヨン教授に研究内容と社会のメンタルヘルスのための代案について聞いた。

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-韓国のヘラルド経済新聞に、国際学術誌 「PLOS ONE」にオ教授の論文掲載ニュースが報道された。どんな学術誌なのか?

「PLOS ONE」は科学医学関連論文をオンラインのみで出版している学術誌だ。1年に約10万件の論文が掲載される世界最大の論文学術誌であり、人々が自由に閲覧できる。

 

-感情労働とは?

感情労働とは第3次産業であるサービス業の就業者が顧客の満足度を高めるために感情を商品化して販売する仕事のことを言う。韓国では感情労働者のストレス問題が深刻になっている。つまり、顧客側のパワハラなどの被害によるストレス、うつ、身体的なストレス症状を、解決すべき社会問題として扱っている。

 

-研究内容は?

感情労働の被害に関してはもちろん法制度の改善や認識改善が必要だが、それは長期的な改善。今すぐ感情労働者のストレス改善に役立つことはないかと悩み、心身ヒーリング脳教育プログラムを開発し、雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)に提案した。

コンセプトは、感情労働者が職場での休憩時間に行う10分間の体操・瞑想トレーニングだ。企業に脳教育トレーニングを提供しているHSPコンサルティングU-DAP、個人の脳健康管理を行っているブレイントレーニングセンターなど、専門家のアドバイスを受けながら、体操、呼吸法、瞑想で構成した8つの映像を制作し、ソウル大学病院で検証を行った。

感情労働の代表的な職業でもある看護師を任意に募集して実験群と対照群に事前アンケートを行った。実験群は1日10分の映像を8週間オンラインで見ながらトレーニングを行った。1日10分という短い時間、自分で映像を見ながら行う体操・瞑想でどれほどの効果が上がるか、正直なところ期待はしていなかった。しかし、驚きの効果が証明できた。ストレスは減少し、自分の感情を認識したり、調節、管理、活用できる情緒知能は向上した。そして辛いことがあっても振り払って乗り越えられる力である回復弾力性も向上した。予想だにしなかった結果によって脳教育の効果が明らかになり、類似の実験をしても同じ効果があるということが検証された。

その結果を受けて今年、雇用労働部の支援を受け、グローバルサイバー大学単独で、全国の感情労働者に普及する事業を進めている。全国の大型ショッピングモール、病院、航空会社、コールセンターなどに感情労働管理士を派遣して2時間の指導を行っている。

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-現場の反応は?

とても喜んでいる。体操、呼吸法、瞑想で、社員が互いにマッサージしたり、言葉によるヒーリング(聞きたい言葉と聞かせたい言葉を話す)をするなど、疎通と共感の場を提供すると、教育満足度と他の人への推薦意向が80%以上だった。
釜山の病院の看護師80人の反応がとても良く、ソウルにある系列病院にも推薦してくれた。政府の支援で大型ショッピングモールと病院には無料で提供したが、支援が終わって有料でしか提供できないと言っても申請がある。雇用労働部の支援は雇用保険に入っている職員が支援対象なので公務員は無料支援対象ではないが、公務員研修の要請も来ている。
グローバルサイバー大学の生涯教育院では、8分の動画を無料で配布しており、様々な企業に派遣している。

 

-動画のトレーニングと講師を派遣して行うトレーニングはどう違うか?

自分で動画を見ながらトレーニングをするとセルフヒーリングはできるが、共感や疎通はなかった。1人では本当に効果があるのかと疑いながらトレーニングするが、大勢で一緒に行えば満足度が高いのは当然だ。 感情労働者には共感と疎通能力が大事なので教育を行うから支援してほしいと政府に求めた。そして支援を得て派遣教育を進めた。

集団教育は満足度が高く、教育後に教育を実施した会社の雰囲気が分かる写真を共有してもらっているが、非常に喜んで幸せそうな雰囲気なのが見て取れる。

 

-職務ストレスで健康に異常症状が出たり、うつなどで休職にまでいたる人もいると思う。集団教育以外の対応があるか?

感情労働者の中でもストレスやうつがひどい人を対象にマンツーマン相談も行う。精神健康医学に脳教育を応用しているブレイン集中力統合医院から専門医を派遣して個別相談を来月始める予定だ。

 

-日本は50人以上の従業員がいる事業場にはストレスチェックが義務化され、治療などにつないでいる。韓国の状況は?

韓国も30人以上の事業場ではストレスチェックをしている。チェックはすでにしたが、その次にどうすれば良いか対策に悩んでいた企業が、脳教育心身ヒーリングプログラムの存在を知り、大歓迎された。

 

-日本は職場以外にも引きこもりが54万人、引きこもっている時期も7年から10年、20年以上も1割になり、引きこもりが高齢化していることも社会問題になっている。代案・対策になる意見は?

類似事例がある。ソウル大学病院とのプロジェクトでトラウマ患者を対象にした仲裁プログラムを開発してテストし、分析中だ。引きこもりになった理由も経験による記憶の問題だ。プログラムでは過去の良くない記憶を肯定的意識に治癒することでトラウマから脱出できるように助ける。感情の深いところを扱うので、適応できるのではないか。内面を深く眺めて癒やせる脳教育が代案になるのではないかと思う。

脳教育にはメンタル健康増進の方法論と哲学がある。引きこもりも感情労働者のストレスも感情の問題から誘発される症状なので、各分野に適したプログラムをデザインしていけば、社会のメンタルヘルスの側面ではかなり役立つと思う。

トラウマ仲裁プログラムは15~20分間、サウンドで過去の良くない記憶を浄化する脳浄化瞑想などを適用している。トラウマ、引きこもりの原因になった心の傷は簡単に改善されるものではない。治癒ではないけれど、15分間、しばらく忘れるようにきっかけを与えると、そこから人生が改善できるのではないかと思う。これがうまく進めば医療機関のヒーリングプログラムとして取り入れられるように、ソウル大学病院と進行中だ。

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-へそヒーリングを含めた持続的な脳教育プログラムの実践を心身健康のために提案しているが、脳教育の体操・呼吸・瞑想は他とどう違うのか?

法律救助公団からの教育要請があったが、そこでは職員に国民体操(日本のラジオ体操に相当)のように動画を見ながら行う方法で実施すると言う。それほど簡単で良いとのこと。
そして、身体の各部位に意識を集中することに大きな差があると思う。自分が感じているところに意識を集中することによって、そこが改善されるという思いと体操が結びついている。そこで効果が生じると思う。認知科学では、臭いをかいたり、見たり、味を味わったり、触れたりする時に活性化される脳の部位と同じ部位の脳領域が、考えただけの時でも活性化される。同じ理屈で、実際に自分が動かしている身体の部位に集中して、そこが健康になる、よくなっているとイメージすると、身体にそのまま適用される。そうやって呼吸と瞑想を同時に行っていることが最も大きな違いだ。

そして講師による疎通と共感も特徴だ。心身脳教育プログラムによって、泣いたり、笑ったりしながら自分とのコミュニケーションを図り、自分の感情に近づくきっかけを与える。参加者同士で肩をもんだり、背中をほぐしてあげたりしながらコミュニケーションするなど、肯定的エネルギーを作っていく。2時間という時間で、講師と一緒に感情を解放させ、コントロールする経験をするので、参加者は感動する。こういったプログラムは35年間、すでに様々な現場で検証された脳教育の要素を集大成したものだ。