「最近、階段の上り下りだけで息が切れる」
「もう歳だから、筋肉がつかないのは当たり前……」。
40代を過ぎ、50代、60代と年齢を重ねるごとに、私たちは無意識のうちに自分の体に「限界」というラベルを貼ってしまいがちです。しかし、体力が落ちたのは、年齢のせいではなく、あなたの脳が「自分には無理だ」とブレーキをかけているからかもしれません。
そのブレーキを外し、脳と体を劇的に進化させる最強のメソッド。それが今回ご紹介する「ブレイン懸垂」です。
◆84歳の筋肉が語る「訓練は裏切らない」という真実
まずは、あなたの常識を覆すある男性のエピソードから始めましょう。書籍『ブレインフォンをオンにする』に登場する、韓国のチョ・ジョンインさんです。
彼は84歳。驚くべきことに、彼は懸垂を連続で8回こなします。
「元々スポーツマンだったのでは?」と思うかもしれませんが、実は彼が懸垂を本格的に始めたのは70代になってからのことでした。
当初はバーにぶら下がるだけで精一杯。腕は震え、体は1ミリも浮き上がりませんでした。しかし彼は諦めませんでした。少しずつ、脳に「自分はできる」という信号を送り続け、数年かけて84歳にして若者顔負けの背筋を手に入れたのです。
私たちは、勝手に「老化」という言葉で自分の可能性を閉じ込めてはいないでしょうか?
懸垂は単なる筋力トレーニングではありません。自分の体重という「人生の重み」を引き上げることで、脳のブレーキを外す「ブレインスポーツ」なのです。
◆72歳からの再出発:著者が体験した「世界が変わった瞬間」
「ブレイン懸垂」の提唱者であり、脳教育の権威である李承憲(イルチ・イスンホン)氏もまた、懸垂によって人生の景色を変えた一人です。
若い頃から武道に励み、健康には自信があった李承憲氏ですが、72歳のある日、ふと公園の鉄棒にぶら下がったときに衝撃を受けました。
「1回も、できない……」
かつては軽々とこなしていた動作が、全くできなくなっていたのです。自分の体の衰えを突きつけられた瞬間でした。しかし、彼はそこで絶望する代わりに、ある決意をします。
「死ぬまでに、必ずもう一度自分の力でバーを越えてみせる」
「トイレに行くたびにぶら下がる」という習慣
彼はわざわざジムに通うことはしませんでした。自宅のドア枠に懸垂バーを設置し、「トイレに行くたびに、必ず10秒ぶら下がる」というルールを決めたのです。
最初はただぶら下がるだけ。次は数センチだけひじを曲げる。そんな地道な習慣を数か月続けたある日、ついにその時が訪れました。
グイッと腕を引き寄せると、視線がバーを越え、向こう側の景色が見えたのです。その瞬間、彼は「世界を手に入れたような達成感」に包まれました。単に筋肉がついたのではありません。「自分はまだ変われる。自分をコントロールできる」という強烈な自信、つまり脳のOSが最新版にアップデートされた瞬間でした。
◆なぜ「懸垂」が脳に効くのか?
なぜ数ある運動の中で、懸垂がこれほどまでに脳に良い影響を与えるのでしょうか。そこには科学的、そして哲学的な理由があります。
① 強烈な「自己効力感」の獲得
懸垂は、自分の体重という物理的な重みを、自分の腕一本で制御する行為です。心理学で重要視される「自己効力感(Self-Efficacy)」とは、「自分ならできる」と思える自信のこと。足が地面から離れ、自分の意志だけで重力に抗う感覚は、脳にとって「自分は環境に支配される存在ではなく、主体的に生きる人間だ」という強烈なメッセージになります。
② 「GRIT(やり抜く力)」を脳に刻む
心理学者アンジェラ・ダックワース氏が提唱し、成功の鍵として注目される「GRIT(グリット)」。 懸垂は、才能やセンスではなく「昨日より1秒長くぶら下がれたか」という純粋な継続が結果に直結します。この「明確な壁」に挑み続けるプロセスそのものが、脳の粘り強さを養い、日常生活や仕事におけるストレス耐性をも向上させます。
③ 脳への血流と「快楽ホルモン」のシャワー
懸垂は広背筋、上腕二頭筋、体幹など、上半身の大きな筋肉を総動員する全身運動です。大きな筋肉を動かすことで全身の血流が促され、脳への酸素供給量が増加します。
さらに、バーを乗り越えた達成時には「ドーパミン」が、運動後には多幸感をもたらす「エンドルフィン」が分泌されます。
これにより、中高年が陥りがちなメンタルの停滞を打破し、ポジティブな精神状態を維持できるのです。
◆実践編:誰でもできる「ブレイン懸垂」3ステップ
「1回もできない」のは恥ずかしいことではありません。むしろ、そこがスタートラインです。筋力に自信がない方でも、今日から家で始められる3つのステップをご紹介します。
ステップ1:ただ「ぶら下がる」
まずはバーをしっかりと握り、自分の体重を感じることから始めましょう。
足が床についたままでも構いません。
まずは1日10秒から。
脳への効果:手のひらの刺激は直接脳に伝わり、運動神経を呼び起こします。
ステップ2:重力に逆らう「下りるだけ懸垂」
実は、筋肉が最も成長するのは「力を入れて縮める時」ではなく、「重力に耐えながらゆっくり伸ばす時」です。これをネガティブ懸垂と呼びます。
椅子や踏み台を使い、最初から顎がバーの上にある状態を作ります。
そこから、5秒〜10秒かけて、できるだけゆっくりと体を下ろしていきます。
脳への効果:自分の体をコントロールしているという感覚が、脳の神経回路を強化します。
ステップ3:寝る前に「想像する(イメトレ)」
実際に体を動かさない時間も、トレーニングは可能です。
布団の中で、自分が軽々と、羽が生えたように懸垂をしている姿を鮮明にイメージしてください。
脳への効果:オハイオ大学の研究では、筋肉を動かす「想像」をするだけで、実際に運動した人の半分近い筋力向上が見られたという驚くべき結果が出ています。脳内で「できる」回路を先に作ってしまうのです。
◆あなたの人生の重みを、その手で引き上げよう
懸垂バーを乗り越えて見える景色は、昨日まで見ていた景色とは全く違います。それは単なる高い位置からの視点ではなく、「自分の力で壁を乗り越えた人間だけが見ることができる、自信に満ちた世界」です。
懸垂の1回は、人生の困難を乗り越える1回と同じです。もし今、あなたが仕事や健康、人間関係で「もう年だから仕方ない」と諦めかけているのなら、まずは今日、数秒間どこかにぶら下がってみてください。
年齢は単なる数字に過ぎません。それはあなたがこれまで積み重ねてきた経験の、尊い「重み」です。その重みを、あなた自身の手でグイッと引き上げてみませんか?
明日の朝、トイレに行くついでに、あるいは公園を散歩するついでに。あなたの「脳」と「人生」を引き上げる挑戦を、今日から始めましょう。
