二十歳で「人格完成」を人生の目標と決めた若者がいました。彼は人格を磨いて完成するために、節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義など、十三徳を決め、毎日その徳目をどれほどよく守ったか自ら評価して反省し、不十分な徳目にさらに集中して実践しながら生涯を送りました。
小学校2年が学歴のすべてだった彼は、生涯勉めて独学と人々との交流によって自ら学び覚えました。そして、政治家、外交官、新聞社の発行人、発明家など、多くの職業で業績を残しましたが、彼の遺言により墓碑には「印刷工」と刻まれました。彼は死後に、アメリカ合衆国建国の父とあがめられ、アメリカで最高額の紙幣である100ドル札に載っている人物として後世に伝えられています。その人物とは、ベンジャミン・フランクリンです。
私は講演でベンジャミン・フランクリンのことを、単に成功して尊敬されている人ではなく、私たちが見習うべき素晴らしい自己啓発のモデルとして紹介します。日常生活が自己啓発になるように生きてきたベンジャミン・フランクリンの一生は、私が脳教育を通して追求してきた人生と一致するからです。そのため私がつくったオルタナティブスクールの名前もベンジャミン人間性英才学校にしました。
これまで私が生きてきた人生を振り返ってみると「ビジョン完成と自己啓発」と言えます。私は30歳の頃に、私と社会と人類を生かすというビジョンを立て、そのビジョンを実現するために絶え間なく自己啓発をしてきました。私にとっての自己啓発は、ビジョンを達成するための力、つまり体力と心力と脳力を育てることでした。
私は仕事柄、よく講義や講演をします。幼稚園児や小学生対象のこともあれば、80歳90歳になる方たちに講演することもあるのですが、対象によってまったく異なる話し方で接しなければなりません。また、経験したことのある人はわかると思いますが、聴衆が増えれば増えるほど、心力の大きさが求められます。ところで最近は、講演を行うのに空間的な妨げがありません。オンラインで同時に世界10カ国に講演することもあります。私は、新しい情報通信技術の習得や活用にとても積極的です。
自然の中に瞑想のための空間をつくるのも、私がしている仕事のひとつです。瞑想するのによい場所を探し、そこへ行く散策路をつくり、そこに瞑想のための階段やデッキをつくり、景色のよいところには東屋のような休憩所をつくり、その場所に新しい名前をつけ、案内プレートに文字や絵を描くといった、発見と創造の作業が私のもうひとつの日常です。海外では、運動がてら一人でゴルフを楽しむこともあり、海に近いところでは釣りをすることもあります。私にとってゴルフや釣りは、趣味を超えて新たな脳活用を研究するよい機会になります。「ブレインゴルフ」は長年、私が構想してきたプロジェクトのひとつです。
このすべては、使命でもあり、仕事でもあり、趣味でもあり、遊びでもあります。私には、この4つの区別がありません。なぜなら、このすべてがビジョンを達成することでもあり、同時に自己啓発の目標や課題でもあるからです。私は休まず新たな情報を得て身につけ、適用して挑戦するのを楽しみます。
120歳まで生きると選択して本を出版したのも、ビジョン完成と自己啓発のための目標を立てたということなのです。120歳は、大局的には人類平和のための学問ですが、局所的には人格完成と自己啓発のための方法論です。だから私は、私の人生そのものが脳教育の自己啓発モデルになるよう努めています。
自己啓発というのは自分自身をつくることです。私はこんな人間になると決め、そのような人間になっていくプロセスです。言い換えると、自分の人生を発明し、運命を自ら創造していく過程です。そのため、完成を求める人生の旅において継続的な自己啓発は必須なのです。
すべての人の内面には、創造的な本質があります。また、創造的な本質を実現したいという欲求があります。このような欲求は、年をとっても減ったり消えたりはしません。むしろ年をとるほどに、より積極的に創造性を発揮して自己啓発に没頭する人も多いのです。
若い頃や人生の前半期の自己啓発は、成功に必要な能力を高めることを目的に行われたかもしれません。仕事や専門分野で自分の商品価値を高めるための活動であることが多いでしょう。しかし引退後は、単なる成功のための手段ではなく、よりよい自分になるための努力から得られる純粋な喜びや内面の満足感、人格の成熟と魂の完成のために自己啓発をすることができます。
私たちは生きている限り、絶えず自己啓発を通して創造的な本質を心ゆくまで実現すべきです。私たちの心臓と脳が止まる最後の瞬間まで、日々新たな自分になるために努力するのです。昨日と今日は何かが違っているべきで、今日より明日はさらによくなるものがあるべきです。どのような環境にあっても、「この環境の中で私にできることは何か?」と考えていると多くのアイデアが生まれます。小さなことでも、そのアイデアをすぐに実践してみましょう。そのような実践が集まって人生の変化と成長がつくりだされるのです。
自己啓発だからといって、新たな何かを習うためにプロの講習を聞かなければならないわけではありません。生活の中でいつもよい考えをし、その考えを実践しながら、体と心を動かすことが自己啓発です。外国語が上手になったり、前より重いバーベルをもちあげられるようになったり、新しい機器を使いこなせるようになるといったことだけが自己啓発ではありません。前よりよく微笑むようになったり、自分や人のミスを笑って済ませられるようになったり、愛情表現が前より自然にできるようになったり、自分により正直になるのも自己啓発の結果です。
自己啓発は、自己探求を前提としています。自分のことがわからなければ、自分をまともに啓発することも、成長させることもできません。また、本当の自己啓発は決して自分だけでは終わりません。自己啓発を続けていけば、その結果が自分の家族、他の人、共同体、さらには地球にまでつながります。私の変化がすぐに世界の変化につながるのです。
完成の時期に自己啓発をするという姿勢は、職人気質の芸術家のようなものです。職人は方便やはかりごとはしません。自分が満足する最高の品質をつくるために、絶えず自分を磨き、どんなときも最善を尽くします。思索や瞑想で自らを正直に見つめ、どんな変化が必要か認識し、必要な変化をつくりだすと選択し、その選択を強い意志で実行に移すのです。その過程で魂が、完成に向かう自己啓発の旅の灯台になってくれます。
完成の時期の自己啓発は、人と競争するためのものではありません。私たちが競争すべき対象があるとすれば、それは昨日の自分自身です。成功には様々な締め切りがありますが、完成に向かう自己啓発の締め切りはただひとつ、人生の最後の瞬間だけです。
2017年がもう暮れようとしています。今年を振り返り、自己啓発の目標は何だったのか、どのくらい達成したのか、自らに尋ねてみてください。瞑想で、自分自身の内面、一年間の生き方を深く見つめる時間を設けてほしいと思います。そして、新年に自分に与えられる最高のプレゼントは「完成に向かう自己啓発の目標」ではないでしょうか?
一指李承憲(イルチ イ・スンホン)
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