発明家にして未来学者、コンピュータ・エンジニアでもあり、実業家。現在、グーグルで技術部門のディレクターの一人であるレイ・カーツワイル氏は、人類がテクノロジーを取り入れることで近い将来、次の段階へ進化すると言う。人類を超えた存在(ポスト・ヒューマン)とは、どのようなものなのか。そこで見える世界は、天国か地獄か、それとも変わらぬ日常か――。(インタビュー・吉成真由美/Yahoo!ニュース 特集編集部)
人間の思考力は無限に拡大していく
——人類が「人間の脳力を超えたコンピュータ」を手に入れると、何が起こるのでしょうか。
まず、寿命が格段に延びると思います。人間がもともと備える自己防衛力の1つが免疫系ですが、老化にともない顕在化してくる疾患に対しては役に立っていません。しかし、発達した人工知能は、人間の免疫力を強化することができます。今のところスマートフォンのようなデバイス(機器)は、主にコミュニケーション手段として使われています。しかし、2030年までには、これらのコンピュータ・デバイスが血球ほどの大きさになる。血球サイズのロボットは、血液中に入り免疫力を拡張してくれる。結果として、人間の寿命は延びるというわけです。
また、人類は、拡張現実(AR)を日常的に体験することになるでしょう。今はARデバイスを眼や耳や腕に装着していますが、2030年代になればそれらを神経系の中で行うようになる。すると、現実と寸分違わない世界を、脳内に作ることもできるようになります。
一番重大なのは、思考などの高次タスクを担う脳の新皮質を、直接インターネットのクラウド(コンピュータ・ネットワークのこと)につなげるようになることで、われわれの思考そのものが拡大するということです。
約200万年前、われわれが類人猿から人類に進化する段階で、新皮質が拡張し、前頭葉は大きくなりました。新皮質は多層構造になっていて、新しい層が上に追加されるようにしてできています。そして、上の層になればなるほど、より知的で抽象的な高次のタスクを行います。これにより頭蓋骨も膨張したため、十分な新皮質の拡大が言語の誕生につながり、アートや音楽がさらに続きました。
われわれは、同じような「進化」を遂げる時期に来ています。新皮質の最上層をクラウドにつなげることによって、新皮質が「量的に」拡大をするわけです。ちょうど200万年前に、新皮質の拡大が行われたのと同じように。
進化は、人類に向かって起こっているわけではなく、多方向に向かって起こってきています。多方向ですが、その一つが「知能を高める」という方向だと思います。その上人類は、自分の知能を自分が創った「外部機器に移す」という飛躍を成し遂げた。
人類は自然の創造物ですが、テクノロジーを生み出し、そのテクノロジーが次世代の音楽、アート、サイエンス、新たなテクノロジーなどを生み出し、それらがさらにその次の創造物につながっている。このことを指摘するのは「不遜」ではなく、人類が進化上の一つの臨界点を超えたという事実を「観察」して、述べているに過ぎません。
進化の過程でこれは避けて通れないことです。「シンギュラリティ」の究極の本質はここにあります。つまり、自らを改良していけるような、十分に知能の高いテクノロジーを生み出すことです。