[教育]「a dream year project」 自分の夢と進路を設計する日本ベンジャミン人間性英才学校 品川玲子校長インタビュー

メンタルヘルスケアに関する世界の最新事例や研究成果を紹介する「第3回グローバルメンタルヘルスセミナー~脳教育を通した大人と子どものメンタルヘルスケア~」(主催・特定非営利活動法人IBREA JAPAN)が、9月10日(土)大阪大学で、11日(日)東京大学で開催された。その第2部で「青少年のメンタルヘルスケアと脳教育」をテーマに日本ベンジャミン人間性英才学校(以下ベンジャミン学校)の品川玲子校長が「脳教育で青少年に夢と希望を」というテーマで講演し、ベンジャミン学校を紹介した。品川玲子校長にベンジャミン学校について、そして教育の問題と代案やこれからの教育の方向性について聞いた。

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1.セミナーで、日本ベンジャミン人間性英才学校(以下、ベンジャミン学校)1期生の発表がありましたが、生徒たちの変化をどうご覧になっていますか?

4月の入学式から約6カ月間、それぞれ大きな成長があったと思います。定期ワークショップや国際交流プログラムなどを通して、何より自分の考えや気づきを表現する自己表現力とコミュニケーション能力が向上したのが見えます。自ら選択して進行しているベンジャミンプロジェクトでは、自分がやりたいことを実践する過程で自信がついたと思います。ベンジャミン学校が目標としている内面の成長、人間性の成長は、目に見えないし評価できるものでもないので認識できないこともあったりしますが、今回のセミナー発表のようなきっかけがあって、保護者、メンター、先生方みんなが生徒の成長を感じることができました。発表したのは一部の生徒ですが、今回の発表だけでも自分を克服して成長できる大きなきっかけになったと思います。

2.夏休み明けの9月に中高生の自殺率が高くなるという調査がありましたが、このような青少年のメンタル面での代案については、どうお考えですか?

自殺以前の、イジメ、暴力、引きこもりなどメンタルの問題が増えている中、代案になる教育の変化は先進教育を参考にする必要があると思います。日本の学習能力はOECD国家のトップの水準で素晴らしいのですが、青少年のメンタル面で多くの問題を抱えています。全面的な検討と根本的なシステムの変化が必要ではないかと思います。成績で評価される競争システムでは、なぜ勉強をするのかに対する根本的なモチベーションが与えられないのではないでしょうか。受験は過度なストレスやメンタルの問題の原因になっています。国家競争率を高めるためにはなくてはならない過程だという考えもあるでしょうが、デンマークやアイルランドを見ると必ずしもそうではないことが分かります。

30~40年前には、アイランドは国力も弱い国でした。過度の競争によるメンタルの問題が深刻だったので教育の根本的な変化を起こすために作ったのがトランジションイヤーでした。成績を上げるために評価したりチェックする環境ではなく、生徒が夢を見つけられる環境と時間を与えたことがポイント。将来どんな人になりたいのか、何をしたいのかに対する根本的なモチベーションを与えることです。1年間テストを行わず、自己主導型でプロジェクトを立てて実践し、発表したり、音楽や芸術、趣味、ボランティアなど社会体験活動を通して進路を模索し、設計する時間を与えました。初めはモデル学校で試行して学業成果も評価し、学習能力も向上したという結果を受けて全国80%の学校に導入しました。メンタルに関する問題は根本的な理由への洞察が必要だと思います。青少年が幸せでない理由は何でしょうか? 勉強自体が嫌いなのではありません。根本的なモチベーションを与えられなかった私たち大人の責任ではないでしょうか。そういう責任を痛感して、アジア初のトランジションイヤーを導入したのがベンジャミン人間性英才学校です。

ベンジャミン学校で最も基本としているのが体力です。ベンジャミン体操12段というトレーニングで体を鍛えることによって自分の内面の力を育てていきます。これは体力、心力、脳力(精神力)をひとつにする脳教育の哲学と方法論に基づいた大事な課程です。そして、誰かの役に立つ人間、弘益人間になるという志を持つことで障害を乗り越えて頑張れる力が湧いてきます。そういう部分を高めることで青少年のメンタルの問題解決に役立つと思います。

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3.フリースクールやオルタナティブスクールなど様々な教育がありますが、ベンジャミン学校は他とどう違いますか?

ベンジャミン学校は一般の学校とは違う明確な目標と特性を持つオルタナティブスクールに近いです。しかし、1年休学して夢と進路を設計する課程ですので、広くはフリースクールと見ることもできます。

ベンジャミン学校には5つがありません。教科授業もテストも、成績表もない、宿題もなくて校舎もないのです。オンライン環境とワークショップで交流し、コミュニケーションを図っています。

ベンジャミン学校を一言で表現すると「a dream year project」。自分の夢と進路を設計するマネージャーとして成長できる学校です。このような教育システムにはベンジャミン学校提唱者の一指李承憲先生の哲学が入っています。生徒一人ひとりの脳に答えがあるという哲学です。教えるのではなく、自ら模索して選択して創造するプロジェクトを体験していきます。明確な夢がある生徒も、そうでない生徒も入学しています。山登り、自転車旅行、野菜栽培など、それが何であってもやりたいことを思いっきりやる環境を提供することが一番大事です。そこから夢と進路を探すことになります。地元の様々な分野の専門家のメンターが生徒の成長をサポートしていますが、それがベンジャミン学校の特徴であり、評価されている部分でもあります。そして、様々な形の社会活動やアルバイトの経験もしています。

言語、文化、国家の枠を超えた国際化環境でグローバルリーダーシップを育てる教育と交流も提供しています。今は国家競争力を高めるためにもグローバルな体験と交流が大切です。英語を早くから教育させるところが多いですが、だからといって英語がしゃべれるようになるかと言えばそうでもありません。国際化された環境の中で外国語を使いたいというモチベーションを与えることが大事です。そして「地球村に暮らしている」「私は地球市民だ」というアイデンティティを持つようになります。そういう意味でベンジャミン学校は地球市民学校とも言えます。ベンジャミン学校が提供している国際キャンプや国際ワークショップ、国際プロジェクト、国際大会やカンファレンスへの参加によって、生徒の意識が成長しています。ベンジャミン学校は、地球市民教育というコンセプトと哲学を教育理念にしており、それに基づいてカリキュラムを編成・実施しています。

4.ベンジャミン学校に入学するにはどんな資格が必要ですか?

15~20歳まで入学が可能です。小3~中3はベンジャミンジュニア課程が別途あります。 20~29歳まではベンジャミンギャップイヤー課程もありますので年齢にあわせて参加できます。今年度中学校卒業予定者から来年4月の入学対象者になります。自分がやりたいことを見つけたいという夢や希望がある人、ベンジャミン学校の趣旨に賛同して自ら選択し、保護者の同意があれば誰でも入学できます。

5.これからの日本、世界の教育の方向性は?

一番大事な方向性は地球市民教育ではないかと思います。国連総会でも持続可能な地球社会を築く核心的なテーマとして地球市民教育を選択しています。その理由は、単なる寄付や支援活動だけでは限界を感じているからだと思います。飢餓に苦しむ国のことを自分のことのように感じて共感する、そのような意識の転換が必要です。最優先すべき教育の変化、方向性は、地球市民教育だと見ています。
ベンジャミン学校は地球市民学校という観点から、言語、文化、国を超えた「私は地球市民だ」というアイデンティティの確立が教育の根本だと考えています。
そして、教育の主体の転換が必要だと思います。何を学び、何を教えるのかをこれまで政府、学校、教師が主導してきましたが、方向を変えて教育の主体が生徒になるべきです。一人ひとりが自分の才能、可能性、進路、夢、未来を設計できるように方向を変えていくことが、日本と世界の進むべき教育の方向性ではないかと思います。また、アイルランド、デンマーク、アメリカの教育先進モデルも参考にする必要があります。アメリカのオバマ大統領の娘がギャップイヤーを選択したことが話題になりました。ハーバード大学でもギャップイヤーを行っていますね。自分の時間を持って社会経験をたくさんしたほうが良いですし、そんな人を企業も歓迎しています。教育の世界的な変化を導入するモデルに、ベンジャミン学校がなればという思いとともに、これからの教育の変化に少しでも役に立てたらと思っています。

◩ 日本ベンジャミン人間性英才学校  http://benjaminschool.org/