メンタルヘルスケアに関する世界の最新事例や研究成果を紹介する「第3回グローバルメンタルヘルスセミナー~脳教育を通した大人と子どものメンタルヘルスケア~」(主催・特定非営利活動法人IBREA JAPAN)が、9月10日(土)大阪大学で、11日(日)東京大学で開催された。そこで「第2の脳(腸)から始まる体と心の健康ストレスケア」をテーマに、日本を代表する腸の専門家と韓国のストレスマネジメント研究者を招き、幸せな心・脳・体をつくるコツや情報を伝えた。
「うんち博士」、「カイチュウ博士」、「へそヒーリング」。聞くだけで笑えると同時に、健康分野では非常に注目を浴びているテーマである腸。3人の講演者のセミナー内容から健康な脳、健康な体、健康な心、そして健康な人生の鍵である腸のメンテナンスのヒントが得られそうだ。
「腸内細菌が健康寿命を決める!~大切な腸内環境コントロール~」
- 「うんち博士」として多数のテレビ出演や著書で知られている辨野義己博士(国立研究開発法人理化学研究所 特別招聘研究員)の演題は「腸内細菌が健康寿命を決める!~大切な腸内環境コントロール~」。辨野博士は、DNA解析により数多くの腸内細菌を発見し、腸内フローラの神秘の解明に多大な貢献をされてきた。腸研究の最新動向やデータにもとづき、腸内細菌のバランスを整えて健康になるために知っておきたい心がけなどを紹介した。
健康な人生とは平均寿命と健康寿命を縮めることだ。食事をしてから12時間から24時間以内にお通じが毎日あるかということが健康にとっての最重要事項だ。出すことこそが生きること。しかし、私たちはいかに腸内環境を悪くしているか。臓器の中でも、大腸がん、大腸ポリープなど、死に至る病気が多いのが大腸。腸は単なる臓器ではなく病気の発生源だ。その腸をいかにコントロールするかによって健康の発信源にも変えられる。
さらに2010年あたりから脳腸相関というものが言われ始め、脳の発達に関係する腸内細菌が体内微生物にすごい働きをしていることも分かってきた。腸内細菌は年齢によって大きく変化し、善玉菌と言われるビフィズス菌が年齢とともに10倍から100倍ほど減少し、悪玉菌が増える。トイレが臭いというのは腐敗が進んでいるということ。それを腸年齢の老化と呼ぶ。600名の腸年齢を調べた調査で、60%以上の女性で腸年齢が老化している。48%は便秘、その65%は5日に1回だ。女性の便秘が一番多いのは20代で2人に1人は便秘。10代では10人中3人が便秘というのが現実だ。
脳の活性化には、人とよく話をする、よく歩く、よく眠る、夢を持つ、この4点を持てばいい。腸の活性化には納豆やヨーグルトなどの乳酸菌と野菜をしっかり食べる食事習慣をつければいい。野菜と生きた菌で実験したところ、便の成分が変化し、あまり臭わなくなった。善玉菌が増え、腸内環境が改善されて、あまり臭わないうんちになったのだ。1日2リットルから2.5リットルの水を飲む。そして運動と睡眠をしっかりとる規則正しい生活。これが健康長寿を作る大事なポイントだ。健康のためにうんちチェックをお忘れなく! 腸内細菌との共生で「健腸生活」をゲットしよう!
「幸せな脳は『腸』がつくる」
藤田紘一郎博士(東京医科歯科大学名誉教授)は「カイチュウ博士」として親しまれ、腸についてのテレビ出演や数々の著書で知られる。藤田名誉教授は、日本の免疫学の第一人者であるとともに、人間の腸の持つ優れた機能と、心と体の健康に与える影響をわかりやすく伝える専門家として活躍している。これまでの研究成果をふまえ、「幸せな脳は『腸』がつくる」と題して腸と脳の密接な関係について解説し、だれでもできる実践法を伝えた。
人は病気にならなければ、心も体も元気に125歳まで元気でいられる。それには細胞の末端にあるテロメアという小粒子が重要だ。生まれたときに1万塩基あるテロメアが5,000塩基になると人が死ぬことになっている。テロメアの長さを短くさせずに長生きするには、免疫力・自然治癒力を高めて、体内の活性酸素を減らせば良い。
腸内細菌は人それぞれ違って各自腸内細菌が免疫力を高めることに関与している。無菌状態の胎児が生まれると免疫力はゼロ、生きるために免疫力を高めないといけないので何でも口に入れて細菌を取るのだ。
免疫は腸内細菌が70%と神経系の刺激である心が30%影響する。腸内細菌を元気にするためには色がついた野菜の食物繊維をとる、運動する、丹田呼吸で腹部の温度を上げる、規則正しい生活をすることが大事だ。
そして笑って楽しく生活して、好きな人と食事をする、イメージトレーニングなどで免疫系の活性化以前に第一線の防衛を行う細胞であるNK細胞を出すようになる。そして、細胞の老化の一因をつくる活性酸素を減らすためには、お酒は好きな人と1日2杯まで。
腸内細菌を元気にすれば、心も体も元気になるというのは間違いない。メンタルの困ったことがあったら、腸を大事にしてほしい。
「第2の脳である腸から脳とメンタルヘルスにアプローチするへそヒーリング」
オ・チャンヨン教授 (グローバルサイバー大学脳教育、認知科学)は認知科学と脳教育をもとに職場の感情ストレスケアに対する脳教育プログラムの効果について、今年8月に国際学術誌「PLOS ONE」に掲載された内容にもとづき発表するとともに、第2の脳である腸から脳とメンタルヘルスにアプローチするへそヒーリングについての研究成果を発表した。
サービス業の就業者が顧客の満足度を高めるために感情を商品化して販売する仕事を感情労働という。感情労働者のストレスは社会問題として扱っている中、感情労働者のストレス改善のために心身ヒーリング脳教育プログラムを開発し、雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)に提案した。体操、呼吸、瞑想の脳教育の基本トレーニングで構成したプログラムでストレスは減少し、自分の感情を認識したり、調節、管理、活用できる情緒知能は向上、そして辛いことがあっても振り払って乗り越えられる力である回復弾力性も向上した。それを受けて政府の支援で感情労働管理師の集団教育、マンツーマン相談プログラム開発などを進んでいる。
腸の血液循環を促し、腹部の温度を上昇させて免疫力を高める健康法であるへそヒーリングは、へそを押したときに最初に刺激がある小腸の血液中には全体の70%に相当する免疫細胞が存在するため、へそヒーリングによって腸が活性化されると、消化が良くなる、便秘解消、血行促進、冷え改善、デトックスなどの効果で免疫力・自然治癒力が高くなる。
幸せホルモンと呼ばれるセロトニンは、脳から分泌されるのはわずか5%で、90%以上が腸から分泌されることから、腸は第2の脳とも呼ばれる。へそヒーリングを実施した後にはへその周りだけではなく体全体の温度が上がり、免疫力に直結すると知られている体温の変化が最も目立つ効果だ。脳波測定ではガンマ波とベータ波が安定したことが確認され、ストレスが減少し、リラックスでき、自分の感情をコントロールできる力が高まるなどの効果が証明された。
つまり、体操・呼吸・瞑想で構成された脳教育心身ヒーリングプログラムとへそヒーリングでメンタルヘルスやメンタルの問題から生じる社会問題の解決が期待できる。