だれかと友達になるのは、その人のいろんな面をありのまま受け入れるということです。理性では理解できないことも、ありのまま受け入れれば心がオープンになり、お互いに心の交流が起こるようになります。この時、起こる現象は何でしょうか?
生まれた背景や人生の経験は人それぞれ異なりますので、特にその差が大きいほど、お互いを理解するのが難しくなります。頭蓋骨の中にある脳、その中の神経細胞のネットワークが異なるからです。「常識」というネットワークが異なり、価値判断の神経ネットワーク、信仰に対するネットワーク、食習慣や話す習慣の神経ネットワークが異なります。
だから、相手をあるがまま受け入れるというのは、相手の神経ネットワークを認めることなのです。それはその人が生きてきた人生を認めることで、存在価値を認めることになります。そして、心がオープンになって真の交流ができる環境になることもあります。
▲自分のシナプスを変えるためには、自分の脳に「私は脳のあるじだ」と伝え、
脳に「私はこの方向に進みたいから、そのように作動しなさい」と教えましょう。
ときどき、私の脳の中にどんな回路があるかを取り出して相手に見せられたら、どんなにいいかと思ったりします。携帯用のプロジェクターをポケットに入れて持ち歩き、お互いボタンを押すと、脳の中の回路を見せられるのです。そうすると、Aという入力情報に対して相手の反応がB~Zまで出てくる理由を互いに誤解なく知ることができると思います。自分と違う意見を持っている相手に対して、そのような意見を持つようになった背景を理解することができるのです。このような脳の理解は、私たちが考える「脳そのもの」ではなく「脳のあるじ」であり、脳は私たちが使う「ツール」なのだという認識をもたらすようになるはずです。
人間の脳は、1.2~1.4 kgで、体重全体の2%程度を占めています。(参照1、2)。人によって差はありますが、男性は1,260㎤、女性は1,130㎤の容積があります(参照3)。これは、頭蓋骨の中で保護されています。人間の脳は、約1,000億個の神経細胞(8.6±800億個の神経細胞と8.5±1,000億個の非神経細胞(参照4))があり、それぞれの神経細胞には、約7,000個のシナプス結合があります。3歳の子供には、約1,000兆のシナプスがあってこの数字は年齢とともに減少し、大人には100~500兆のシナプスがあります(参照5)。
この脳のシナプスが、今この瞬間、私たちの人生を意のままにあやつります。
でも、私たちは遺伝的、環境的な背景の影響で作られた脳内の神経細胞ネットワークの中に閉じ込められて一生を生きていくのは惜しいくらい、優れた存在です。ところが、実際は地球に生まれた人間としての高貴な価値が目立つほどは現れていないようで残念です。私たちは、神経細胞ネットワークよりもずっと価値のある存在なので、そのネットワークの中に閉じ込められて苦しむ必要はないかもしれません。
もうこの脳から少し外れてみてはいかがでしょうか?
自分と楽しく遊んでみましょう。目を閉じて吸う息や吐く息を感じたり、心臓の鼓動を感じたり、体を感じてみましょう。座っている自分の体を、心の目で前から眺め、横から眺め、後ろから眺め、上から眺めてみましょう。まるでテレビドラマに出てくる人物を見るように、眺めてみましょう。そして、その人物の頭の中にある脳を見てみましょう。
脳の中に100~500兆個のシナプス結合があるのが見えるでしょうか? 電気信号が行ったり来たりしながら、瞬間的な判断、感情、行動、思考を決めるシナプス結合を脳の外側と体の外側から眺めていると、ふと、人とはシナプス結合に決められる存在ではないという気がしてきます。社会と文化、私たちの経験が作った被害や否定のシナプスに閉じ込められて生きるには、この地球上の人生はとても大切で価値があります。シナプスから抜け出しましょう。
自分のシナプスを変えるには、シナプスを眺められる必要があります。だから自分の脳に「私は脳のあるじだ」と伝え、脳に「私はこの方向に進みたいから、そのように作動しなさい」と教えなければなりません。これが脳教育の脳のオペレーティングシステムBOS(Brain Operating System)です。
脳のシナプスを変えるにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか? ロンドン大学で96人のボランティアを対象に調査した結果、新たな習慣を作るのに18~254日がかかったそうです(参照6)。人によって3週間から9カ月かかるということです。自分の脳を訓練する新しい習慣をスタートするなら、10カ月間は挑戦してみることをお勧めします。そして、脳の主になりましょう!
<参照>
1.Parent, A., Carpenter, M.B. (1995). “Ch. 1”. Carpenter’s Human Neuroanatomy. Williams & Wilkins. ISBN 978-0-683-06752-1.
2. Bigos, K.L., Hariri, A., Weinberger, D. (2015). Neuroimaging Genetics: Principles and Practices. Oxford University Press. p. 157.
3. Cosgrove, KP, Mazure, C.M., Staley, J.K. (2007). “Evolving knowledge of sex differences in brain structure, function, and chemistry”. Biol Psychiat. 62 (8): 847-855.
4. Azevedo, F. et al. (2009). “Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain”. The Journal of Comparative Neurology. 513 (5): 532–541.
5. Drachman D (2005). “Do we have brain to spare?”. Neurology. 64 (12): 2004-5.
6. Lally, P et al. (2010) “How are habits formed: Modelling habit formation in the real world.” European Journal of Social Psychology 40, 998-1009.
文。国際脳教育総合大学院大学 脳教育学科 ヤンヒョンジョン教授