■「街路空間」充実 健康にも有用
健康寿命の延伸に必要な「歩く力」。この力を伸ばすために役立つとされるのが、世界各地で進められている人間中心の街路空間づくりだ。「知らず知らずのうちに歩いてしまうまち」を目指し、国も全国に街路空間づくりを広げていこうと後押しする。ただ、車中心の生活となっている地方からは戸惑いの声も聞かれる。(道丸摩耶)
◆再開発で歩道広げ
「以前はここまでが車道だった。区の許可を得て区道を2メートル狭め、両側の歩道を1メートルずつ広げる整備を行った」
東京都千代田区のJR東京駅近くに伸びる「丸の内仲通り」で3月13日、国土交通省主催による全国の自治体担当者を集めた視察会が開かれた。都心の大丸有地区(大手町・丸の内・有楽町地区)を再開発する三菱地所の担当者が、地区の変化や開発の狙いを説明。参加者は石畳が敷かれた広い街路を歩き、関係機関との協議の方法などを積極的に質問した。
丸の内仲通りは再開発により歩道が広がり、レストランやカフェがテラス席を広げたり、「東京ミチテラス」などのイルミネーションイベントが開かれたりと都内でも屈指の人が集う街路になった。こうした「人々が集う空間づくり」は、大阪市の御堂筋や北九州市の商店街「魚町サンロード」など全国で進む。
◆車から人へ転換
「街路」が注目される背景には、人口減少社会がある。これまで、特に地方では多くの道路が車中心に作られてきた。しかし、交通量が減少し地方の人口も減る中、道路を人間中心の空間に変え、沿道と路上を一体的に使って人々が憩える街路空間を作る重要性が増している。
東京芸大の藤村龍至准教授によると、ニューヨークでは2000年代初め、多くの車と人が行き交っていたタイムズスクエアを広場化し、街路を車から取り戻すことに成功した。こうした動きはロンドンなど世界の都市で広がる。
国内でも国交省が3月、全国の自治体関係者を集めた「全国街路空間再構築・利活用推進会議(マチミチ会議)」を初開催し、各地の先進的な取り組みを全国へ広げていく道筋を探った。同省都市局の青木由行局長は「道路だけを見るのでなく、近くにあるインフラを一緒に考えていく」として、沿道の店舗や公共交通機関などと協力していく必要性を訴えた。
◆「結果的に歩く」も
健康寿命延伸の観点からも、人々が外に出て歩きたくなるようなまちづくりは重要だ。青木氏は「1人暮らしの高齢者の孤独を防ぐためにも、出かけたくなるまちづくりが必要だ」と話す。ただ、会議では地方自治体の担当者から「車依存社会の地方都市では、歩きたくなる街路づくりは難しい」と戸惑いの声もあがった。
100歳時代プロジェクトのヘルスケア委員を務める久野譜也・筑波大教授は「都市環境の整備は、要介護の人をつくらないために効果的とされる対策のひとつだ。世界保健機関(WHO)も『健康都市とはウォーカブルシティ』と打ち出しており、日本でも自動車依存度が低いと糖尿病発生数が少ないというデータがある」と歩きたくなるまちづくりが健康づくりに有用と解説する。久野氏は東京の地下鉄の乗り換えを例に挙げ、「歩きたいと思わなくても、まちの構造で結果的に歩かされてしまうまちづくりという発想が大事だ」とアドバイスしている。
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