子どもは毎日元気いっぱい。そう思いたい一方で、実際の学校生活には、勉強のプレッシャー、友人関係の悩み、家庭での緊張感など、さまざまなストレスの種があります。大人から見れば小さなことでも、子どもにとっては大きな負担になることも少なくありません。
こうした日常的なストレスは、気分の落ち込みだけでなく、集中しにくい、イライラしやすい、やる気が出ないといった形で表れ、学習や学校生活にも影響を及ぼします。だからこそ今、子どもたちが「自分で心を整える力」をどう育てるかに注目が集まっています。
そんな中、新たな可能性を示したのが、2024年に国際脳教育総合大学院大学のパク・ジョンチャン(Park, Jong-Chan)氏が発表した論文、
『脳教育にもとづく人間性プログラムが小学生の日常的ストレスに及ぼす影響:認知・情緒・身体マインドセットの媒介効果』です。
小学4年生を対象としたこの研究では、脳教育にもとづくプログラムを受けた子どもたちに、日常的ストレスの低下が見られました。さらに注目されたのは、単に一時的に気分が変わったというより、ストレスや感情への向き合い方そのものに変化が見られたことです。
脳教育プログラムとは?
今回の研究で扱われたのは、「脳教育にもとづく人間性プログラム」です。
対象となったのは小学4年生357人で、プログラムを受けた実験群が213人、比較対象となったのは、通常の学校活動を行った対照群144人でした。つまり、何もしていない子どもたちと比べたのではなく、日常の学校生活を送っていたグループとの比較で変化が検討された点も、この研究の大切なポイントです。
実施されたのは、週1回40分、全12回のプログラム。内容は、子どもにも取り入れやすい活動で構成されていました。
プログラムの主な内容
・体をほぐして意識を向けるブレイン体操
・呼吸を整えて落ち着きを促す呼吸法
・自分の内面に目を向ける瞑想
・前向きな言葉を使うポジティブな自己対話
研究の背景には、小学生のストレス対策の必要性があります。勉強、友人関係、親との関わりなど、子どもたちは日常の中でさまざまなストレスを抱えています。一方で、これまでの対策には「脳科学」の視点が十分ではなかったという問題意識がありました。そこでこの研究では、体・呼吸・意識・言葉を通して、自分の状態に気づき、整える力を育てるプログラムの可能性が検証されました。
研究結果:ストレスが減った“本当の理由”
研究の結果、プログラムを受けた子どもたちは、日常的ストレスが有意に減少しました。

さらに、「努力すれば能力や体力は伸びる」という前向きな考え方、いわゆる成長マインドセットも高まりました。
ただ、この研究で特に注目されたのは、ストレスが減った背景です。プログラムが直接ストレスの原因をなくした、というよりも、子どもたち自身の“感情の受け止め方”が変わったことが大きかったと考えられています。
最大の発見
研究では、子どもたちの中にあった、「感情は勝手に湧き上がるもので、自分ではコントロールしたり調節したりできない」という思い込みが弱まったことが、ストレス軽減の鍵になっていたことが示されました。
これは、論文でいう「情緒の固定マインドセット」の低下にあたります。少しやさしく言い換えると、「感情は変えられないもの」から、「感情には向き合い方や整え方があるもの」へと認識が変わった、ということです。

たとえば学校生活の場面に置き換えると、友だちとの行き違いで落ち込んだとき、「もういやだ」「この気持ちは自分ではどうにもできない」と感じる子もいます。けれど、呼吸を整えたり、自分にかける言葉を変えたりする経験を重ねることで、「今はつらいけれど、少し落ち着くことはできそう」と思えるようになるかもしれません。こうした変化が、日々のストレスを軽くする一因になった可能性があります。
なぜ保護者や教員にとって重要なのか
この結果は、家庭や学校で子どもを支える大人にとっても大きなヒントになります。子どものストレスを減らそうとすると、つい問題そのものを取り除くことに意識が向きがちです。もちろん環境を整えることは大切ですが、それと同時に重要なのが、子ども自身が「自分の気持ちには向き合い方がある」と感じられることです。
大人が意識したいポイント
・子どもの感情をすぐに否定しない
・「そんなことで悩まないで」ではなく、まず受け止める
・「どうしたら少し楽になれそう?」と一緒に考える
・呼吸や姿勢、言葉がけなど、簡単にできる方法を日常に取り入れる
子どもが「自分は気持ちを少しずつ整えていける」と感じられるようになることは、ストレス対策だけでなく、学校生活を前向きに送る土台にもつながる可能性があります。
まとめと今後の展望
今回の研究が示したのは、子どものストレス軽減には、「感情はどうにもならないものではない」と気づくことが重要だということです。そして、その気づきを育てる方法として、脳教育にもとづく人間性プログラムには高い価値があると考えられます。
論文でも、このプログラムは学校教育に導入する価値が高いと結論づけられています。特別な設備がなくても実施しやすい内容であれば、学校での心のケアの選択肢は今後さらに広がっていくかもしれません。
家庭でも、難しく考える必要はありません。深呼吸をする、体を少し動かす、自分を励ます言葉を持つ――そんな小さな習慣の積み重ねが、子どもの心の土台を支える可能性があります。
「つらい気持ちは勝手に自分を振り回すだけのものではない」
「気持ちには、向き合い方や整え方がある」
この視点は、子どもたちがこれからの学校生活や人生をしなやかに歩んでいくうえで、大きな力になりそうです。
