[健康] 脳教育の瞑想が、感情コントロール、集中力を高め、脳の構造的変化をもたらす~ヤン・ヒョンジョン韓国脳科学研究院副院長インタビュー

瞑想すると、脳がどう変わるのでしょうか? 瞑想に関心が高まるにつれ、瞑想が脳に与える影響に対する研究も活発になっていきています。

脳教育のブレイン瞑想について、ヤン・ヒョンジョン韓国脳科学研究院副院長(国際脳教育総合大学院大学 融合生命科学科教授)に尋ねてみました。ヤン副院長は神経科学の観点から瞑想の効果、脳への影響などを研究しています。

ヤン・ヒョンジョン副院長は、東京工業大学生命工学科で生命情報(Biological Information)を専攻し、卒業後修士課程を経て博士号を取得しました。その後、2010年から今年の初めまでイスラエルのワイツマン科学研究所に研究員として在職しました。

科学界のエリートたちは瞑想よりもファクト(実際にあったこと)を重視しますが、どうして瞑想に関心をもつようになったのですか?

神経科学のほうでは、アメリカやヨーロッパで瞑想が多く研究されており、既存の西洋医学の限界を超えようと試みています。また、予防医学や補完代替医療として高く評価されています。アメリカのNIHでも国立補完統合衛生センター(National center for complementary and integrative health)を設け、政府レベルの支援をしています。

瞑想に関心をもったのはずいぶん前で、神経科学に研究の方向性を決め、大学院のころから分子神経生物学の分野で神経科学を研究しており、国際脳教育大学院に来ることになって関心のあった瞑想分野の研究をすることになり、うれしく思っています。

脳と身体はつながっています。身体を使って運動すると脳に影響を与え、瞑想すると意識の状態が変わって身体が変わります。身体と心が相互作用するのです。瞑想が私たちの身体に与える影響を神経科学の観点からこれからも研究していきます。

瞑想状態では、細胞はどう変化しますか?

瞑想する時に、脳のどの部位が活性化するか調べるために使った主な方法は、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)です。しかし、細胞そのものを見るのではなく、活性化した部位を見るものです。瞑想して身体に影響をあたえると、分泌されるホルモンが変わります。瞑想だけでなく、丹田たたきなどの運動でも脳の状態を変えられます。例えば、腸を刺激することで迷走神経を介して脳に信号を与えて情報を変え、腸内細菌の活性化の程度を変え、迷走神経を介して脳に影響を与えます。腸と脳の細胞間コミュニケーションがどんな役割をしているのかを主に研究しています。瞑想と腸運動は、神経科学と深く関係しています。

脳に関しては、どのような研究をしていらっしゃいますか?

主にミエリン(髄鞘)を研究しました。MRIを撮ると、白く見える白質に髄鞘構造が多いのですが、神経伝導の速さに関与するのがミエリンです。
学習とも関係があり、思春期になるまで抽象的な思考がよくできませんが、その理由がミエリンにあります。ミエリンは、生後から発達しはじめて、首の後ろから前頭葉のほうに発達します。この白質が脳の前方にある前頭葉の部位まで発達すれば、抽象的な思考ができるようになります。その頃が思春期です。

ミエリンが大事な役割をしているんですね。大人の場合はどうでしょうか?

大人になっても30歳前後までミエリンが発達します。その後、老化が起こって神経変性が起こると、ミエリンが萎縮します。大人でも、難しい学習、例えば、ジャグリングやピアノなどを習うと、ミエリンが増えます。ミエリンは、学習と関係があります。

疾病によってミエリンがなくなったり、減ったりすると、部位によっては麻痺が生じたり、機能が低下することもあります。神経細胞は、私たちの身体全体を司っているため、身体全体の円滑な神経伝達のためにはミエリンの助けが必要です。

瞑想には、どのような効果がありますか?

現代人は心因性疾患が多いです。ストレスが引き起こした疾患ですね。肉体的、精神的なストレス要因がかなり多いのですが、そのようなストレス管理に役立ちます。HPA軸(視床下部-脳下垂体-副腎系)がありますが、その部分が活性化しすぎると、うつや慢性疲労の症状が現れます。瞑想をすると、ストレスコントロールができ、ストレスによって誘発される心因性疾患の予防ができます。

また、腸内環境に変化が起こって迷走神経が刺激を受け、フィードバックが脳に伝わります。そのフィードバックが感情や気分、状態を変えてくれます。運動して、脳がよい気分を感じ、そうして身体と心がよくなります。瞑想で性格を改善するのも、そういうことです。

同じ状況でも人によってストレスを受ける程度が異なります。これはどう説明できますか?

ストレス状況での個人の反応は、2つあります。1つは遺伝的背景、もう1つは環境の影響、それに対する自分の対応方法によって統合的に決定されます。

遺伝的背景とストレスによる反応を調査した研究によると、ストレスに敏感で神経質な反応をするかどうかは遺伝的要素によって差があります。このように遺伝的背景は、ある程度私たちに統計学的に有意に作用しています。


▲ヤン・ヒョンジョン韓国脳科学研究院副院長は、神経科学の観点から瞑想の効果、脳に与える影響などを研究している

ところが、脳教育の瞑想が遺伝的背景の違いを超えて、健康に肯定的な影響を与えているという結果がソウル大学病院と韓国脳科学研究院の研究で報告されています。

初めは遺伝的背景によって多くのストレスを感じて差があるのですが、脳教育の瞑想をした人に共通しているのは、ストレスをあまり感じなくなったということです。これはストレスによって引き起こされる心因性疾患の有病率も、遺伝的背景に関係なく脳教育瞑想によって減少する場合があることを示唆しています。

脳教育の瞑想効果の核心ポイントは、私たちが選択すれば、私たちが持っている条件(遺伝子)に関係なく、私たちは健康や人生を創造できるということです。

脳教育の瞑想が遺伝的差異も解消できるという研究結果が興味深いです。人間の性格は脳神経学の観点でどんな意味がありますか? また、脳教育の瞑想は、そのような脳をどう変化させるのでしょうか?

人間の性格は、すべての他の特性と同じく、脳の神経回路網を私たちが認知できるように表したものです。私たちの脳には変化するという可塑性があるので、性格として表現される脳の神経回路網にあたる部分も訓練で変えられます。2016年にPsychiatry Investigに発表された研究によると、外向的な性格か、神経質な性向があるのか、喜びを求める傾向が強いか弱いかなどの遺伝的背景の性格特性が、脳教育にもとづく運動法で、社会性に有益な方向に改善されたという点が脳教育瞑想の効果だとしています。つまり、外向性が高まり、神経質な性向は低下し、開かれた心が増え、喜びを求める傾向が強まり、行動を抑制する性向が低下しました。

特に、この変化は個人が周囲と交わる社会性が高まることを意味します。これは脳教育にもとづく瞑想によって社会で活発に行動できる方向に脳が変化すると言えるでしょう。

社会性が高まるというのは、脳教育の瞑想の重要な効果のひとつではないでしょうか?

脳教育は2010年以降、国際ジャーナルに主に健康関連で報告されましたが、脳教育の瞑想は健康の効果に加え、教育にも肯定的な効果があります。

脳教育は健康面で多くの効果がありますが、その中でも優れた効果の1つにストレス管理能力が挙げられます。ストレス管理とは、自分の感情をコントロールできる能力を指します。2013年に雑誌「SCAN」に報告されたソウル大学医学部と韓国脳科学研究院などが共同で研究した結果によると、脳の構造的な側面から見ると、感情をコントロールする脳の前方の部位に、瞑想によって構造的な変化が起こりました。また、脳教育によってストレス減少が現れる点も考慮すると、脳教育の瞑想によって、ストレス状況で感情をコントロールし、自分をコントロールする能力が向上したことを示していると見られます。

教育面では、脳教育は人間性の涵養に大きな効果があるのですが、その過程で見られる特徴のひとつは自己観察力が高まることです。自己省察とも言いますが、個人にどんなよい点があるかというと、例えば、自分を客観的に眺められるようになります。その訓練を続けると、感情を交えずに自分を判断でき、ある瞬間、誰から見ても明確な判断ができるようになります。そんな能力を備えた人が社会で重要な役割をできると思います。

社会の立場でも、自分の利益にもとづく判断より、多角的に見て、みなに役立つ判断をし、全体を考えるような個人を歓迎するようになります。このような脳教育の瞑想は、社会に役立つ個人が増える瞑想法だと思います。

瞑想で脳が変わると、どのくらい持続できますか? 脳を変化させるというのは、肯定的な感情を維持できるような脳の構造的な変化を起こすということですか?

そうとも言えます。脳教育の瞑想を平均3年5カ月行ったグループに構造的変化が起こりました。この構造的変化は、感情コントロールや集中力コントロールと関連があると思います。

この研究に参加した実験グループは、平均3年5カ月のあいだ、週4日、1日に平均44分トレーニングしてきたグループです。したがって3年くらいトレーニングを持続すれば、このような変化が起こると推測できます。

しかし、トレーニングを短期間した時には、脳構造の変化を撮影しなかったので、脳構造の変化が短期間で起こる可能性は排除できません。最近の研究結果は、その可能性が大きいと示唆しています。例えば、新しいゲームをした2時間後、脳の白質を撮影すると、白質が変化したという研究があります。それは、とても短い時間でも白質の変化が起こるということです。


▲ヤン・ヒョンジョン韓国脳科学研究院副院長は、日本で生命情報分野の博士号を取得し、イスラエルのワイツマン研究所で研究をした

しかし、脳は可塑性をもっているので、トレーニングによってクオリティ・オブ・ライフ(人生の質)を向上させる方向に変化した脳も、トレーニングしなくなると変化がなくなることがあります。瞑想で脳構造が変わるのは、この可塑性によって神経回路が変わったという意味です。変化した回路を維持するには、トレーニングを続けないといけません。よい状態を維持するためには、地道な努力が必要です。

否定的だったり脅迫傾向がある人は内面に集中するのがむずかしいことがありますが、このような人々に瞑想が必要なのではないでしょうか?

否定的、肯定的、または、柔軟な性向、強迫傾向、このような特性は神経細胞の立場から見ると、中性(良い・悪いという価値を持たない)であり、どれも、脳にそのような神経回路網が形成されているから現れる特性です。

脳は変化できる可塑性があります。しかしながら、既存の神経回路が強ければ強いほど新たな神経回路に変わる作業は簡単ではありません。したがって、斬新な変化が必要です。例えば、足が不自由な人に、高い山の頂上に登るという目標を与えると、何もしない可能性が大きいです。自分の既存神経回路網に照らしてみたときに、それは多くのエネルギーが必要だし、実現の可能性がないように見えるからです。

ですが、目の前にあるステップを1段上がってみろと言われたら、できると思います。このような過程を繰り返していると、ある瞬間、ステップくらいは簡単に上がれる神経回路網が形成されます。その次の段階として階段を少し上がる、階段をたくさん上がる、低い丘に登る、高い丘に登る、このように少しずつ進んでいけばいいのです。そのあいだに、神経回路網が可塑性によって弾力的になると、脳が柔軟になり、変化が自由になり、大きな目標にも簡単に挑戦できる、というように変化します。

まとめると、否定的だったり、強迫観念がある人は、今そのような神経回路網を持っていますが、変われるという可塑性も持っています。その状態で内面に集中するというのは、歩けない人に一気に山に登れというようなものかもしれないということです。

だから、そのような状態でも、小さな達成感を何度も得ていると、自然に脳が柔軟になります。脳教育の瞑想でも、このようにアプローチしていきます。その人の脳の特性をよく把握し、それに合ったコーチングをしてあげることが大事だと思います。

神経科学では瞑想のヒーリング効果をどう見ていますか?

ここ20年間ほどで、瞑想に関する心理学的、神経科学的な研究が飛躍的に増えました。肉体の健康、精神的な健康、認知能力に有益な効果が知られています。

特に瞑想が、注意、感情、自己認識のコントロールに関連する脳の領域の構造と機能に神経の可塑的変化を起こすということがどんどん証明されています。

しかし、瞑想の作用の根底に関する理解は、まだ「よちよち歩き」の段階にあります。作用の根底がひとつの経路なのではなく、ストレス反応に作用する視床下部-脳下垂体-副腎系の出力コントロール及び自律神経系のコントロールによって、免疫力、腸内環境、脳神経系が疎通しあいながら作る総合経路によるものと推定しています。

世界中で、脳教育のブレイン瞑想が多く導入されているそうですね。

アメリカでは瞑想に関する研究が数十年間されており、瞑想の効果について科学的なデータがあり、社会的な信頼もあります。そのため、脳教育を公教育に導入しやすいです。アメリカでは、体系的に瞑想に関する研究が行われています。

ヤン・ヒョンジョン博士は、ずいぶん前から瞑想をされているとお聞きしました。

9年前に日本で勉強していた頃に始めました。ストレスを受けて、身体の右側がずっと痛く、ある日、右の手の甲にこぶができました。病院では、神経性だから手術してもまたできると診断されました。瞑想に興味があったので、日本で脳教育トレーニングを行っているヨガスタジオを訪れました。

瞑想すると、体調がよくなり、こぶがなくなって、前はとても緊張するタイプでしたが、そういったことがなくなりました。約3カ月で効果が感じられました。

最初、日本に普通のヨガを習いに行きましたが、動作がとても難しかったんです。でも、脳教育のヨガスタジオでは、私みたいに身体をあまり使ったことのない人でもできて、私はちゃんとできていると自信がつきました。動作が簡単だからです。ブレイン体操やブレイン瞑想。着実にトレーニングして、インストラクターの資格も取りました。

その後、イスラエルに行かれて、何をされていましたか?

最初は、ヘブライ語を習いに行って、その先生夫妻と一緒に瞑想クラスを始めました。人々がだんだん増え、後には研究所のスペースを借りて瞑想クラスを運営しました。朝から晩まで研究室にこもって仕事をしている研究者が多く、身体を壊すことが多いです。彼らにリラックスを体験してもらったところ、みな喜んで、その後も参加しました。地域住民も参加するオープンクラスで運営しました。そこで各国の友人と家族のように親しく過ごしました。5年間、運営したのですが、別れるときは情がわいて、とても泣きました。

イスラエルで脳教育の瞑想を指導したら、人々の反応はどうでしたか?

参加したイスラエル人の中には、霊的な方が多かったです。止感トレーニングなどのブレイン瞑想をするうちに、感覚が目覚めた方もいらっしゃいました。

イスラエルでは「エネルギーヒーラー」という職業に従事している方も多いです。脳教育のトレーニングとユダヤのスピリチュアルな文化は似ていて、トレーニングを行うときに違和感がありませんでした。

瞑想クラスに来られた方は、特に止感や丹舞といったブレイン瞑想を好みました。芸術的な人が多かったですね。

ドイツまで行ってワークショップを開いたと聞きました。

ドイツからイスラエルに研究しに来た人がいました。トレーニングがとても好きで、ドイツに戻るときに、ご両親がいらっしゃるところに私を招待してくれました。そこで近所の人を集めて脳教育ワークショップを1泊2日で行いました。

イスラエルでは農場や地域センター、研究所で脳教育ワークショップを行いました。

自ら体験し、指導し、研究もされているのですが、ヤン・ヒョンジョン博士から見て脳教育にもとづく瞑想が最も必要な人はどんな人でしょうか?

これまでジャーナルに報告された健康に関する脳教育瞑想の特徴は、うつ、不安、ストレス、疲労軽減、注意、問題解決能力、感情知能、ストレス管理能力、ポジティブな感情、社会性などの能力の向上、クオリティ・オブ・ライフの向上、感情コントロール、よく眠れるようになる、などがあります。

脳教育の瞑想は、注意、感情知能、社会性のある子供に育てたい乳幼児から、問題解決能力を高め、感情をコントロールする能力を身につけたい青少年、うつ、不安、ストレス、疲労を軽減し、睡眠の質を高め、クオリティ・オブ・ライフを高めたい大人の方まで、あらゆる年代層に役立つ瞑想と言えます。

長い時間ありがとうございました。