[社会・文化] 人間の頑固さが生む偉大な創造~AIにはない「独創性」

世の中の様々な仕事に、AI(人工知能)が活用されようとしています。私たち一人ひとりが職業人として活躍し、より社会に貢献するためには、AIには持ちえない「独創性」「創造性」を発揮することが大切になります。

昔から独創性が何よりも重要とされてきた分野の一つに、「自然科学」があります。この自然科学を極めたノーベル賞受賞者には、「頑固さ」が共通していると指摘されています。

例えば1978年にノーベル化学賞を受賞したピーター・ミッチェル氏(イギリス)は、人生そのものが頑固一徹で有名です。

ミッチェル博士は1920年、ロンドン近郊のミッチャムに生まれました。ケンブリッジ大学を卒業後大学院に進みますが、学位を取るのに7年もかかりました。納得いくまで研究を続けたためです。

その後、エジンバラ大学に勤務。1961年に光合成などによる生物エネルギー変換についての化学浸透圧説を発表します。この学説は当時、余りにも大胆な仮説だったため、多くの科学者から無視されました。それでも頑として自説を曲げなかったため、これが大学を去る原因の一つになったと言われています。

1964年、ロンドン郊外の静かな田舎に古い邸宅を購入して自宅にし、そこにグリン研究所を建てました。そこで、女性助手と2人で生体膜のエネルギー変換に関する研究を続けました。

その後、世界各地の実験室で次々と教授の理論を裏付ける結果が出されて正当な評価を受けるようになります。理論発表から17年目の1978年にノーベル化学賞を受賞しました。常識にとらわれず、自らの信念に基づいて努力を続ける姿勢が、歴史に残る業績につながったのです。

江崎玲於奈氏、福井謙一氏、利根川進氏ら日本人のノーベル受賞者も、若いころから自分独自の意見や見解をしっかり持ち、それを独創的な思考や実験方法に結び付けたことで知られています。

また、民間企業のサラリーマンながら、2002年に43歳の若さでノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏は受賞後の記者会見で「私は一般の人とは違う考え方をするようで、『変人』とも言われている」と語りました。

あらかじめ敷かれたレールの上を進むのは、AIでもできます。むしろ、それはAIの得意とするところでしょう。しかし、未開の地を切り拓き、新しいレールを敷くのは、創造力のある人間の役割です。人間こそが、新しい発想、新しいアイデア、新しい方法で、全く新しい価値を創造できるのです。新しい挑戦には常に困難や失敗がつきまといますが、頑固な信念を貫くことで、大きな成功へと近づいていけます。

人間ならではの創造力をのばせば、AIをより便利に使いこなし、よりよい形で共存することができるでしょう。