「サピエンス全史」という歴史の本が、世界的なベストセラーになっています。2014年に出版されてから、世界48か国で200万部以上売れました。
アメリカのオバマ前大統領やビル・ゲイツ氏などが称賛。日本でもNHKのクローズアップ現代で特集が組まれるなど、大きな話題となっています。
著者は、イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏。ホモ・サピエンスの誕生から現代の科学技術革命にいたるまで250万年の人類の歴史を、ユニークな視点でまとめています。
何がユニークかというと、人類の歴史を「幸せ」という観点から見つめていることです。本書によれば、文明の進歩は必ずしも人々を幸せにはしない。例えば、農業革命は、人口を増やすことには寄与したが、同時に、一人ひとりの労働時間が長くなり、貧富の差も拡大したため、幸福度はむしろ下がった、とのことです。
この本でもう一つ特徴的なのが、人類発展のカギとして「フィクションを信じる力」をあげている点です。「神」や「貨幣」などのフィクションをつくり、それを信じる力が人類の発展に大きな役割を果たしてきた、と主張しています。現代社会の基盤である資本主義のシステムも、実は人間がつくりあげたフィクションなのですね。
ホモ・サピエンスと似たような能力があったネアンデルタール人には、このフィクションの力はなかったため、滅びたそうです。
そのうえで、著者は、結局のところ幸福とは脳の中の化学物質の反応なので、技術や物質的な豊かさとはあまり関係ないのでは、との見方を示しています。今話題の人工知能(AI)も、人間を幸せにするとは限らないということですね。
これまでの人類の歴史を牽引してきた強力な動機は、「よりよく生きること」に対する欲求でした。しかし、人類は今、力の論理から引き起こされた不均衡、不平等、不公正の問題を抱えています。このままでは、人類に未来はないと多くの専門家が警告しています。地球環境の悪化や貧富の差の拡大はその最たる例です。
この状況を打開するためには、新たなフィクション、別な言い方をすれば、新たな哲学が必要になってくるということでしょう。
これまでも人類はいくつもの難題を解決してきました。農作物の栽培や鉱物を扱う技術を開発し、自動車と飛行機と宇宙船を発明しました。社会制度をつくり、生活の基盤である地球をくまなく探査するだけではなく、太陽系を越えて宇宙の起源にも近づいています。
人間の想像(フィクション)を実現する過程において、絶え間なく現実の限界にぶつかりながら乗り越えてこられたのは、人間の脳が「想像」するだけでなく、「創造」する力を持っているからです。これからも私たちの時代を切り開いていくのは、脳であることに変わりはないでしょう。