[教育]HQ(人間性知能)でAI時代を生き抜くために必要な価値を創造する

人間社会は長い間、能力を測る基準としてIQ(知能指数)を重宝してきました。その一方で、人間は学業だけではないはずだという意識もだんだん広がっていきました。アメリカの心理学者、ダニエル・ゴールマン氏は1995年、『EQ~こころの知能指数』という本で、一つの対案を出します。心・感情(Emotion)をコントロールする能力として、EQ(感情指数)を提唱したのです。

IQがどんなに高くても、感情のコントロールが下手だと集団作業ができない。EQが高ければ、家族、友人、同僚、上司などたくさんの人々とコミュニケーションが上手にとれるようになり、成長や成功につながる、という考え方です。多くの人に支持されました。

さらに、ゴールマン氏は2007年に出版した続編『SQ~生きかたの知能指数』で、SQ(社会的知性)の大切さを説きました。これは「他人から何を感じるか」、そして「その上でどう動くか」という能力です。他者の心に波長を合わせ、肯定的な人間関係を作ることで、ビジネスもうまくいきやすくなるとされます。

さらに、最近注目されているのが、HQ(人間性知能)という概念です。これは、一言でいえば「人間力」。つまり、AI(人工知能)にはできないこと、人間にしかできないことをする能力です。HQには、EQやSQも含まれます。感情やストレスを上手にコントロールし、良好な人間関係を構築しながら、自分ならではの新しい価値を創造する力が、HQの本質です。ビジョンを持ち、そのビジョンに向かって努力したり、協調性や思いやりを大切にしながら他者や社会に貢献したり—といった行動力も、HQで問われます。

ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏は、人間の知性を「創造力」と「分別力」に分けたうえで、「大量のデータを瞬時に学習するAIは、人間をはるかに超える分別力を備えることも可能であろう。だが創造力は持ち合わせていない。人間はこれまで以上に、独自の創造力に生きがいを見いださねばならない」と指摘しています。

1本のライ麦から出ている根を合わせると、1万キロ以上にもなるそうです。「良樹細根(りょうじゅさいこん)」「大樹深根(だいじゅしんこん)」という言葉があるように、健やかに伸びる大樹は、地下に深く広く細やかに根を張りめぐらせ、しっかりと大地につながっています。

今までの教育では、子どもたちは学校や塾から肥料を与えられ、それを吸収しながら一律で高さを競ってきました。これからは、いかに自分ならではの「根」を深く巡らせて、強風が来ても倒れないような強い木に育つか、という点が大切になります。環境や周囲とも調和しながら、自分らしく伸びる。そのためにも、HQを養うことが大切ですね。