[コラム]それでは、私たちは誰?

私の幼年時代と青年時代は、もっぱらひとつの問いにかかずらっていました。「私は誰だろう?」という問いです。長い精神修養の時間を経て、その答えを得た後、私は同じ問いを抱えて悩み、さまよっている人々に会うために、早朝の公園に行きました。人生についての根源的な問いを抱えて私を訪ねてきた人々に、自分の内面に答えを見つけるよう手助けしながら、37年の歳月を過ごしてきました。それが、私の選んだ弘益でした。

これまで韓国からアメリカ、日本、イギリス、カナダ、ドイツ、中国へ。今は、ニュージーランドにまで来て、1年に地球を何度も回りながら、弘益の旅を続けています。私がこれほど熱心に世界各地の人々と会うのには、理由があります。彼らにこう質問したいからです。「それでは、私たちは何でしょうか?」

自分が何者か分かれば、なぜ今の時代に地球に生まれたのかが分かり、「私たちは何者か」への集団的な覚醒につながります。わたしはこれを悟りの連鎖反応、意識の物理化学的な作用だと思っています。

人間の本来の所属は、宇宙です。本籍が宇宙で、現住所は地球なのです。だから、地球で暮らしている人間は、国籍、民族、宗教に関係なく「地球人」です。地球と人間はもともと自然と一つなのです。

それに比べ、国家、宗教、民族は、人間が必要に応じて作った人為的な産物に過ぎません。さらに、それらを構成し、維持している制度やシステムが人為的なのは言うまでもありません。その人為的な産物が人の生命を脅かし、共同体の暮らしを破壊し、地球の生態系まで破壊するなら、人間はその制度やシステムを変えたり無くしたり、新たに作ることができます。制度やシステムを作った人間の当然の責任であり、権利なのです。

しかし、人間はシステムと制度に閉じ込められて身動きできずにいます。物質文明を絶頂まで発達させた利己主義と無限の競争の価値が、人類共同体と地球の共存と持続可能性を極度に脅かしている現実を前に、人間はなすすべもなく傍観しています。全人類と生命体が共に呼吸している大気の質をこれ以上落とさないようにという気候変動枠組条約さえも守る気がありません。

ニューミレニアムの希望に満ちていた2000年8月28日に国連本部の総会議場で、1,300名の世界の宗教及び精神指導者の代表が集まる会議が開催され、私は開幕祈祷「平和の祈り」を捧げました。「この地球で暮らしている私たちは何? 私たちは何をすべきか?」を率直に話したかったのです。

私たちは、アメリカ人、日本人、ユダヤ人、アラビア人である前に地球人であり、キリスト教徒、仏教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒である前に地球人です。私たちは地球人として精神的遺産を持つ人類です。地球を創造したのは地球の神(創造主)ですが、この地球を繁栄させるのは私たち人類です。これまでのすべての過ちを懺悔して、人類は一つであるという感覚を回復し、地球を繁栄させましょう。これが「平和の祈り」の中心的な内容でした。

人間の意識が、国家、宗教、民族の限界に閉じ込められている限り、分裂や対立、戦争は避けられません。人間は、国家利己主義、民族利己主義、宗教利己主義の道具に転落し、その支配欲や貪欲さに利用されているだけなのです。人々が、国家、民族、宗教を超えて地球市民だと自覚すれば、同じ視点、同じ思いで人類と地球の現実を見つめ、手を取り合って共に問題を解決していけるのです。

数年後に私は「地球人(Earth Human)」を「宇宙人」の反意語だと考える人々がいると知り、意識と実践を強調する「地球市民(Earth Citizen)」に変えました。地球市民は、人類が持つべき意識であり、アイデンティティです。この地球市民の概念は最近、ハーバード大学の卒業式でマーク・ザッカーバーグが話した世界市民の概念に似ており、国連の主要プロジェクトである世界市民教育(GCED)とも通じます。

ただ、異なる点を挙げるとすれば、地球市民は中心的価値と教育法、ビジョンと実践運動まで設計され、とても具体的に準備されているという点です。地球市民の中心的価値は「地球」と「人間」です。地球と人間とは、つまり「自然」です。地球市民は、国家、民族、宗教など、人為的な制度を中心にはしておらず、地球と人間を自然そのもの、つまり一つだと見なし、それを中心的価値と思う人です。「何がこの地球で最も大事か」を知っている人です。

地球市民には教育法があります。人間の価値と人類社会の方向は、人間の脳にある情報の量と質で決まります。脳内にどんな情報があるのかということです。その情報を変えなければ意識は変わらず、制度やシステムの改革が成功することはありません。そのため、多くの改革が失敗したのです。

脳教育、人間にとって最も大事な基本教育であり、地球市民になるための教育です。人類の問題は、人間の脳によって生じたものなので、人間の脳だけが解決できます。だから、問題を作り出した人間の脳内の価値と情報が変わらなければ、問題を解決できません。人間が自らそれを自覚し、人類と地球を救おうとする精神(スピリット)で新たな価値を選択すべきなのです。そして、共にビジョンを決め、実践すれば、実現できます。

脳教育は、次の5段階で構成されています。①利己心や欲望など、人為的な価値の追求で固まってしまった「脳の感覚を目覚めさせる」、②脳が機能するように「脳を柔軟にする」、③脳にある否定的な情報を「浄化する」、④脳を新たな価値で「統合する」、⑤脳を活用して生きていく「脳のあるじになる」の5つです。

すべての人間は脳を持っています。だから、私は希望があると思います。この脳を平和的かつ創造的に使えたなら、そして、そのような脳を持つ地球市民が1億人になれば、私は人類と地球の未来には必ず希望があると思っています。

私は、そんな夢を持って脳教育という学問を作り、脳教育を教える幼児教育、子供や青少年の教育、オルタナティブ・スクール、大学、大学院を作りました。また、韓国政府公認のブレイントレーナー資格を作り、グローバルな脳活用スペシャリストを輩出しています。現在、世界17カ国に脳教育専門機関があります。エルサルバドルでは国連の協力を得て国家レベルで公教育として脳教育を実施し、アメリカのニューメキシコ州とニューヨーク市でも公教育として脳教育を導入しています。

国や宗教を超え、地球と一つになった意識を持ち、平和を追求する地球市民がオンラインで集まり、自由で創造的に地球規模で同時にアクションしていけば、私たちは人類史上初の地球村を作ることができます。マーク・ザッカーバーグのフェイスブックなどのSNSやIT技術がこのような新たな変化を生み出す上で不可欠であり、この分野での協力が望まれます。地球と人類を救おうとする地球規模の地球市民運動がオンライン、オフラインで同時に起こることを願っています。

「平和の祈り」を捧げた翌年6月、アル・ゴア前米副大統領とモーリス・ストロング国連事務総長、シーモア・トッピング ピューリッツァー賞選定委員会会長など、世界的に有名な人々がソウルに集まりました。彼らと共に開催した「ヒューマニティ・カンファレンス-地球人宣言大会」で6月15日を地球人の日と宣言し、5項目の地球人宣言文を採択しました。その後、地球人宣言文は数回修正され、今年1月にニュージーランドのケリケリで行われた第1回地球市民ピースフェスティバルで「地球市民宣言文」に改定されました。

ここに「地球市民宣言文」を紹介します。この宣言文は「それでは私たちは何者か?」への私の答えでもあります。地球と人類の未来のために、共に夢見て設計し、変化を創造していく多くの地球市民が誕生することを願っています。

    地球市民宣言文(Earth Citizen Declaration)

一つ、私は、私の価値を見いだして人間性を回復した、すべての人間と生命を
慈しみ愛する地球市民です。
I am an Earth Citizen who loves and cherishes all humans and all life,
as someone who has found my value and recovered my character.一つ、私は、健康で幸せな家族と、平和な共同体の実現に寄与する地球市民です。
I am an Earth Citizen who contributes to making healthy, happy families
and peaceful communities.

一つ、私は、国家、人種、宗教を超え、全人類が一つの家族のように生きる地球村のために
生きていく地球市民です。
I am an Earth Citizen who lives for an Earth Village where all humankind lives
as one family beyond nationality, race, and religion.

一つ、私は、地球の本来の美しさと生命力回復のため、地球の生態系の保全と修復に向けて
実践する地球市民です。
I am an Earth Citizen who acts to protect and restore the global ecosystem
so that the earth recovers its original beauty and vitality.

一つ、私は、人類意識の進化と新たな地球文明時代到来のため、
1億人の地球市民を育成する活動に参加する地球市民です。
I am an Earth Citizen who takes part in the work of developing 100 million Earth Citizens
for the evolution of human consciousness and the advent of a new era of global civilization.

一指李承憲(イルチ イ・スンホン)
http://ilchi.jp/