[コラム]スピードより方向性、人類の危機の解決方法

20年後、30年後に、世界はどうなっているだろうと考えてみたことがあるでしょうか? 人類は現在の文明の胎動が始まったときからずっと同じ道を進んできました。その道は、所有欲と利己心を優先価値とする支配と競争の道でした。産業と科学技術の発展によって文明のスピードは一層速まり、第4次産業革命時代の人類社会は人間性喪失と環境汚染によって全地球的に深刻な危機にさらされています。

今、人類が乗っている列車は、所有欲と利己心を原動力に走る「無限の競争」の列車です。この列車に乗り続けているのは、正しい方向だからではなく、他の道がわからないからです。「このまま走り続けたら、この列車はどこに到着するのか? もしかしてこのまま崖下に落下するのではないか?」という不安がだんだん大きくなっています。人間と地球が共存し共生するためには、列車が走る方向を変えなければなりません。誤った方向に向かってスピードを上げ続けると、悲劇的な結果が待っているだけです。今、スピードを落として止まらなければならないのです。個人でも集団でもしばし立ち止まり、私たちが今どこに向かっているのかを確認し、どこへ行きたいのかをよく考えてみないといけません。

私は、今の人類文明が抱えている問題の解決方法を、単純かつ神秘的な生命現象である呼吸に見いだしました。私たちは今この瞬間も休まずに呼吸を続けています。息を吐き出し吸い込んだら、その次にはまた息を吐き出さなければなりません。呼吸を続けるには、新しい空気を取り込む前に、肺の中に満ちている空気をすべて吐き出さないといけません。吸い続けるばかりだと、生命を維持できません。生きるためには、誰でも吸い込んだ息を吐き出さないといけないのです。

呼吸は生命です。一度吸い込んで吐き出すことを「一息」と言います。吸っては吐き出す一息が終わるとき、ひとつの生命も終わります。そして、新しい息を通して再び新しい生命が始まります。人生も同じです。人は成長し発展し続けて徐々に老い、もときたところに戻ります。始まりと終わりは別々ではなくひとつです。生命の美しさ、尊さ、神秘は、このひとつからくるものです。すべての生命は、多くの始まりと終わりの反復の中にあります。これは、韓国に古くから伝わる天符経に込められている哲学であり、知恵です。

人は、1日にも数え切れないほど多くの呼吸をします。無数の呼気と吸気がなければ、存在できないのです。しかし、いちいち呼吸を意識しなくても自然に息をしています。もしも呼吸を意識してコントロールしないといけないなら、今のように楽に自然に呼吸できるでしょうか? おそらく何もできずに呼吸だけにかかりきりになってもうまくできないでしょう。誰も息をする方法を習ったことはないと思います。生まれた瞬間から習わなくても呼吸しています。深い眠りに落ちた瞬間にも、呼吸は何の問題もなく行われています。考えれば考えるほど、驚くようなことであり、感謝すべきことです。

人種や文化が異なっても、人間に共通することがひとつあります。呼吸の土台をもとに人類の文化と暮らしが維持できているという事実です。人は同じ源から生まれ、同じ空気を吸っている存在です。人間の鼻から天が入ってきて、口から地が入ってきます。人は、天と地に根ざして咲いた生命です。まるで陰極と陽極が出会って明るい光をつくりだすように、人の生命は天地の合作で明るく咲いています。そのため、天地人というのです。

しかし今、人類はその生命の源を失って生きています。肌の色や言語、宗教が異なるという理由で、一つの生命が他の生命を無残に踏みにじり、人権を蹂躙するようなことが起こっています。人間の世界がこのような状況なのに、地球上の他の動物や植物への行いは言うまでもありません。人類が抱えている根本的な問題が何かは、生命のもとである息を通して分かります。息を観察すると、今私たちがどこに来ているのか、どこに向かっているのかが分かります。

これ以上息を吸えないくらい最大限吸って、止めてみてください。私はこれが、現在の人類文化が今いる地点だと思います。今、人類は思い切り息を吸い込んだ状態です。もう息を吐き出さなければならない地点までやってきました。このような状態で競争と支配を追求し続けるなら、息を吸い続けるばかりの人と同じです。その結果は話さなくてもわかるはずです。このとき息を吐き出せば、「あ~、助かった」と安堵をもらすでしょう。

人類は今、選択の岐路に立っています。息を思い切り吸い込んで限界に達した人には、1秒が地獄のようです。吸い続けるだけなのか、それとも止めて徐々に吐き出しながら、新しい「息」をつないでいくのか。今のこの状態で人類の歴史をさらに長らえようとするなら、少なくとも息を止めなければなりません。そして、その息を徐々に吐き出していきましょう。無限の呼気と吸気で紡いでいく生命の循環は、人類史の発展と無関係ではないのです。

人間が悟らなければならない理由は、生命としての存在価値を高めるためです。今、生命として存在価値を高めるためにも、より切実には生存のためにも、吐き出す呼吸の知恵が必要です。しかし、急激に息を吐き出すのはよくないように、競争と支配のシステムを急には止められません。まず根本的に「ひとつ」であることを認識し、また互いの違いを認めて尊重することから徐々に始める必要があります。

これまで地球は自らのすべてを提供して地上の生命を育ててきました。まるで母親のような愛を人類に与えました。しかし病んだ地球は今や人間の脅威になっています。水も安心して飲むことができず、息も存分に吸うことができません。

人類と地球の問題は、生命の論理でのみ解くことができます。息を吸えば自然に吐き出すように、生命が願う方向、すべてを生かす方向に、人類文明の方向性を向けなければなりません。文明の方向を変えるのは、数人の優れた指導者や特定の団体だけではできません。全体を見る洞察力をもつ人々が必要です。悟りを体得した大衆が必要なのです。

地球と人間に宿る生命の美しさと大切さを胸の奥深いところで共感して実践する人が地球市民です。人間を愛し、地球を愛する多くの地球市民が、この地球を生かすことができます。70億いる人類の中で少なくとも1億人の地球市民が誕生してこそ、新しい希望を語れます。これが今、世界的に地球市民ムーブメントが必要な理由です。

地球市民ムーブメントの目的として、「1ドルの悟り」プロジェクトを行い、世界地球市民フェスティバルを開催し、地球市民リーダーを育成するための地球市民学校をつくり、地球市民共同体であるアースビレッジをつくっています。1億地球市民が吐き出す呼吸の知恵で地球を生かし、新たな精神文明時代が開くと信じています。呼吸に、人間と地球をつなぐ生命の神秘を感じ、人類の問題を解決すると宣言する地球市民、彼らがまさに21世紀が願う新人類です。

一指李承憲(イルチ イ・スンホン)
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