[地球・環境]農業の効率化と私たちの健康・環境

以前、昭和から平成にかけて50年以上にわたって農業に従事されたという超ベテラン農家の方に、「昔一番つらかった作業は何でしたか」と伺いました。すると、「田の草取り」だと言われました。

田の草取りは労働の強度ではかれるものではないほどのキツさだったそうです。不自然な姿勢で田を這い、上からはお日様に照らされ、稲の葉っぱに顔をなでられ、下からは田んぼの水で温められるあのつらさは、やった人でなければ分からない、といいます。

かつては、農業に従事されている方々は猫背や腰曲がり、がに股になりやすかったそうです。それは、農作業の7割から8割が中腰、前屈といったきつい姿勢で作業をやらざるを得なかったからです。それによって老齢化が早いという傾向も見られたともいいます。特に稲の単作地帯の農家は、暖地の複合地帯の農家に比べて老齢化が早かったという説もあります。

そういう苦しさを大きく解消した技術の一つが「除草剤」でした。日本の水田で本格的な除草剤が使用されたのは、戦後の1950年ごろだそうです。「雑草は枯れるが、作物は枯れない」という除草剤の登場は画期的で、農家に大歓迎されました。農家の経営にもプラスの影響をもたらしたといいます。

日本では、江戸時代に農民が9割を占めていました。つまり、農業が労働の主体でした。日本は周囲を海に囲まれた島国であり、急峻な山や深い谷が多いという特徴があります。こうした地形や自然環境に適応するためにも、農業に携わる人たちは苛酷な労働をしなければなりませんでした。

除草剤などの農薬や農業機械に代表される農業の「近代化」によって、農作業は格段に効率的になりました。かつては、小学生からお年寄りまで、一家総出でやっていた農作業は、大幅に省略化されました。

その一方で、除草剤の普及と関係していると見られる環境汚染も問題になりました。1960年代前半に、琵琶湖などで大量の魚が死亡するという事態が起きましたが、これは、当時の除草剤が原因の一つだと指摘されました。

その後、除草剤など農薬に対する規制は厳しくなり、環境への配慮も手厚くなりました。近年は、「国産」の農作物に対する信頼が高まっています。また、健全な農地を守ることは、地球温暖化を防止するうえでも大切だという認識が広まっています。

農業は私たちの健康や地球環境と密接な関係があります。国内の農業の担い手確保という課題とともに、国民が真剣に考え、議論していかなければならない問題ですね。