再生可能エネルギーが、ついに石炭を追い越しました。国際調査機関エンバー(Ember)の『世界電力レビュー2026』によれば、2025年、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力など)は世界の電力の33.8%を供給し、33.0%にとどまった石炭を上回りました。静かですが、歴史的な転換点です。世界の電力需要が今の約300分の1だった1919年に、再生可能エネルギー(当時はほぼ水力)が石炭を一時的にしのいだ時期がありました。それ以来100年あまり、石炭は世界最大の電源であり続けています。今回はその1919年以来、初めての逆転です。
数字はほかにもあります。2025年に増えた世界の電力需要(前年比2.8%、849テラワット時)のうち、太陽光と風力だけで99%を賄いました。太陽光は単年で過去最大となる636テラワット時(前年比30%増)も発電量を伸ばしています。その結果、化石燃料由来の発電量は0.2%減少しました。エンバーは、この化石燃料の減少が「経済危機などの一時的な要因ではなく、クリーン電力への構造的な転換によって起きた初めてのケース」だと分析しています。
地域単位でも記録は続いています。ドイツでは2026年上半期(1〜6月)に公共電力に占める再エネの割合が61.8%に達し、過去最高を更新しました。これはフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)の統計にもとづく数値です。
ここで、ひとつ線引きをしておきます。ここまでの数字はすべて、実際に計測された発電量の統計=確立された事実です。 一方で「このペースが今後も続くか」「気温上昇を十分に抑えられるか」は、政策や投資しだいで変わる見通しであり、断定はできません。再エネが石炭を上回ったことは事実ですが、化石燃料が消えたわけでも、気候危機が解決したわけでもない――このことを、まず共有しておきたいと思います。
この「境界線」は、人間に何を意味するのでしょうか
Good Brain News が大切にしているのは、「地球市民意識」という視点です。地球市民意識とは、一人ひとりの選択が、地球という大きな生命とつながっているという見方です。 これは科学的に証明された定理ではなく、私たちがどう生きるかを問うひとつのビジョンとして提示するものです。その前提で、今回の出来事を読み解いてみます。
石炭が100年間保ってきた首位が入れ替わった――この出来事の主語は、実は特定の誰かではありません。ある国の政策、ある企業の投資判断、屋根にパネルを載せた家庭、電力会社を切り替えた個人。そうした無数の小さな選択が積み重なった「総和」として、境界線は越えられました。誰か一人の英雄が動かしたのではなく、たくさんの脳が下したたくさんの判断が、世界規模の統計として姿を現したのです。
脳の働きという視点から見ると、人間には、目の前の小さな行動と、遠く大きな結果とを結びつけて考える力があります。今日どの電気を使うかという選択が、地球の大気とつながっている――この「つながりを想像する力」こそ、地球市民意識の土台だと考えられます。逆に言えば、「自分ひとりが何をしても変わらない」という無力感も、また脳が描く物語のひとつです。2025年の統計は、その無力感に対する具体的な反証と読むこともできます。個々には小さく見えた選択が、確かに世界の電源構成を書き換えたからです。
もちろん、楽観だけを語るのは誠実ではありません。再エネの拡大には、送電網の整備、鉱物資源の採掘に伴う環境負荷、電力の安定供給といった未解決の課題が残っています。終末論的に「もう手遅れだ」と断じるのも、「これで安心だ」と油断するのも、どちらも現実を正しく見ていません。事実は、「越えられない」と思われていた境界線が、人々の選択の総和として越えられた――ただそれだけです。その事実を、過大にも過小にも評価せずに受け取ることが、次の一歩を選ぶ出発点になります。
今日、あなたの脳と手でできる小さな一歩
大きな統計は、突きつめれば一人ひとりの日常の集積です。今日から試せる小さな行動を、いくつか挙げてみます。
まず、「自分の電気がどこから来ているか」を一度だけ調べてみることです。契約している電力会社の電源構成は、多くの場合ウェブサイトで公開されています。知ることは、選び直すための最初の材料になります。関心が湧けば、再エネ比率の高いプランへの切り替えも選択肢に入ります。
次に、「つながりを想像する時間」を1日1分だけ持つことです。たとえば照明のスイッチを入れる瞬間に、その電気が海の向こうの大気とつながっていると、一呼吸おいて思い描いてみる。派手な行動ではありませんが、脳が「小さな選択」と「大きな地球」を結びつける回路を、意識的に使う練習になります。地球市民意識は、知識としてよりも、こうした日々の想像の反復のなかで育っていくもの、と私たちは考えています。
そして、一次情報にあたる習慣を持つことです。今回のように「再エネが石炭を超えた」というニュースを見たら、その元になった報告書(今回はエンバーのレビュー)を一度のぞいてみる。センセーショナルな見出しに流されず、事実と見通しと願いを自分で区別する力は、環境問題に限らず、これからの時代を生きる誰にとっても大切な脳の使い方だと思います。
一人の選択は、小さく見えます。けれども2025年の世界は、その小さな選択の総和が、100年続いた常識を書き換えられることを示しました。次にどんな境界線を越えるのかは、今この瞬間の、私たち一人ひとりの脳と手にかかっています。
